2009年08月26日

主を仰ぎ見ん (1)

 空を覆い尽くしている厚い雲の間から、わずかながら、太陽光が差し込んできていた。昨日までおよそ数千年間は降り続いていた暴風雨が止み、つかの間の陽射しだった。
 計画によれば、五百年もたたないうちに、また数千年もの降雨期となる。このわずかな五百年足らずのうちに、ティエ藻類の発生を確認しなければならない。この止雨期の間には、雨と晴れが循環的に訪れて、地上に太陽光を注ぐ。
 前回の止雨期には、まだその発生が確認できず、海中への酸素の供給が始まらなかった。もし今回ティエ藻類の発生があれば、降雨期の周期は短くなり、日照時間が増えていくことになる。
 どこまでも続く海原、そのところどころに飛び出している岩は、まだ島とも言えず、大陸にも成長していない。ただ、広大な海、いや、淡水の溜まりが広がっていた。
 その水面すれすれに飛びながら、腕を水中に差し入れて水中の成分のデェイタを収集していた。
「まだ、ティエは発生していないな。酵素の量は足りているのだろうか」
 もちろん、その必要量に誤りはあろうはずはない。その必要量を算出しているのは、『主(しゅ)』なのだ。
 一瞬でも疑った己れを恥じて、水中から腕を抜き、上空を見上げて、爆風を起こし、雲を突き抜けた。まだ大気のヴェールが厚くないため、太陽光と放射線が容赦なく降り注いでいる。その煌々とした光をまぶしげに眼を細めて見つめた。
「お許しください、主よ」 
 輝く太陽の如き存在。絶対無比な存在。
 さきほどまで水につけていた腕を差し上げた。
「デェイタを送信します」
 その腕が輝き出し、光の帯を発して、まだ薄い大気圏を突破し、成層圏外に達した。
 腕からの光帯がすうっと消えた。しばし、見上げていたが、再び、デェイタ収集のために雲の下に戻っていった。
 止雨期の間は、惑星上に降り立ち、調査しなければならず、主の元に戻ることができない。
 そのお側にいられないのは寂しい。ときおり、天地を引き裂くような咆哮を上げてしまう。
 『主』よ、お会いしたい。
 いや、どうしても、その顔を見たければ、波穏やかな水面に顔を向ければいいのだ。その姿を見れば、それが『主』のありしときの姿だと言われた。
『主』は、自らに似せて、彼を造ったのだと。
 だが、彼は、水面に映るその姿を見ることができない。あまりに畏れ多くて、『主』の顔など見ることはできないのだ。そんなことをしたら、眼が潰れてしまうだろう。真剣にそう思うのだ。だから、水面に向かうときは、眼をつぶるか、波を立てていた。
 彼と『主』は、もう何万年も一緒にこの惑星を観測している。
 この惑星は、かつて高度な知的生命体が生息し、彼らが築き上げた科学文明によって、地上や地下、海底、さらには衛星、隣の惑星まで開発し、その栄華を極めていた。
 しかし、科学技術による開発の多くは、性急さと効率性、費用対効果により、後世のための資源が犠牲となる。この惑星も例外ではなく、意思統一のされない数多の集団の利己的利益追求によって、搾取と奪取を繰り返し、破綻し、僅かに残った資源を奪い合い、自滅した。
 『主』は、そのことをいつもため息とともに語り、「どうしてどこの連中も同じことするのだろうな」と最後には苦笑するのだ。
 自滅した惑星に、『主』は初期化システム《ムウイェスィオン》により、新世界を造るプログラムを施した。それが、本部《テクスタント》からの指示だった。テクスタントとは、『主』の本体がある場所だという。
 そう、今、この惑星に派遣されている『主』は、その本体から複製した存在だ。
 『主』が、この惑星に到着したとき、彼はまだ誕生していなかった。
そのため、この惑星がどのように滅亡の瞬間を迎えたのかは、『主』の言葉によって知るしかないが、地上といわず、地下といわず、海底といわず、人造物はもちろん、ヒトも動物も植物も、ありとあらゆる生物、大気圏外に散らばるクズのような人工衛星や宇宙島までもが、霧のように粉々になって、『主』に吸い込まれていったのだ。
 そして、なにもかもなくなった地上に、ウルティミュウリアと呼ばれる力を内蔵した超粒子から出来た黄金の粉を振りまき、初期化システム《ムウイェスィオン》を掛けた。通常ならば、惑星の誕生から生命の誕生までは四十億年以上かかるが、一億年はかからずに生命の誕生を見ることができるはずだった。
知的生命体の誕生など必要ない。豊かな海と緑の大地、青く澄んだ空に、食物連鎖と炭素循環が秩序正しく行なわれる新世界が出来上がればいいのだ。
「命の粒が現れるまで」
 観測は続くのだと『主』は言われた。
(続く)
ネタバレ的キャラ&設定紹介
posted by のり at 00:42| Comment(0) | TrackBack(0) | SF・ファンタジー

夏コミ坊主でした

一応、相方えりさんを主役にした「ばちあたり!」としては2冊目の合同誌「ばちかぶるぞっ!」Vol.2を出しました。
えりさんのひさびさの作品ということで、楽しみにしていました。
コピーに四苦八苦しながらもなんとか10冊だけ作りましたが、
えりさんの知り合いの方がおひとり来ていただいた以外は……
(´Д⊂グスン
寂しい状態でした。
のりとしては、ひさびさに大好きな暗黒通信団のシさまにお会いできたのでよかったのですけどね。

のりは、「異能の素子」の続編「無限の素子」の別エピソード的(外伝というのともちょっと違うので)話を書きました。
ブログもなかなか更新していないので、
こちらに少しずつ、掲載します。
あらかじめ、ご注意。
神威的とか宗教的な話ではありません。
ソレっぽい感じはするけれど。
これはSFファンタジーです。

えりさんのお話は浪漫チックなファンタジー。
いずれ完全版をサイトに掲載予定です。

まあ、少しずつでも活動。
冬コミも申込しました。受かるかなぁ。